朝(あした)には

雑感とか旅行とか。

映画「アンダーグラウンド」のおかげで唯一知ってるセルビア語「истина(真実)」

 

※過去ブログより転載(20190428)

 

「アンダーグラウンド」には人生に大切なすべてことが詰まってます。割とマジでそう思う。

 

 クストリッツァ映画は「アンダーグラウンド」しか観ていませんが、最新作「オン・ザ・ミルキー・ロード」のサントラがあまりに日本で発売しないので、セルビアから代理輸入で取り寄せたことがあります(今はiTunesで買えるので皆も買おう!)。本編はまだ観てない……。
 クストリッツァ映画のリリース≧サントラのリリースと言っても過言ではない。

 三時間映画なので、どこがどうでこうこうとはなかなか言えない。でも一番印象的なのはマルコ・ナタリア夫妻が(とりわけナタリアが)地下の人たちに「戦争(第二次世界大戦)は終わってない」と言って数十年も閉じこめたままであることで揉めて、ナタリアが「(嘘ではなく)真実が欲しい」というところです。マルコが結婚式を行う地下の人たちのために犬のエサを用意してるシーン。でも、結局ナタリアは自分のために真実が欲しいのであって、地下室の人たちに嘘をついていることにあまり罪悪感を感じてはいないのではないのかなぁとよく思っています。結局やってらんねーって地下室の人たちをダイナマイトで殺しちゃうし。惰性のあとの後始末の問題だった。

 ナチスとユーゴスラビア共産党の過去の戦い(マルコ(は戦後に党の重鎮になっていた)がナタリアを助ける)を描いたプロパガンダ映画を撮るシーンもあるんだけど、その映画が超クソ映画で、俳優さんたちの大根演技の演技がすごいのであれだけでも見てほしいです。手榴弾が爆発する瞬間と、ドイツ兵役が倒れるタイミングがズレてる。ナタリア役が背負い投げでドイツ兵役をやっつけてる。あとマルコ役とナタリア役の人たちがニコニコしながらマルコとナタリアに近づくんだけど、ナタリアの「マジ?こいつが?こんなブスが私役なの??」な表情もすごい好き。あと、プロパガンダ映画のドイツ兵との戦闘と、実際のマルコとナタリア(とクロ)のドイツ兵とのやりとりの差がすごい。プロパガンダ映画なんだよ!って感じを出しています。

 あとなによりもエンディングはすごい。仲間で憎しみあい、友人で奪いあい、兄弟で騙しあって殺しあい、お互い嘘をつき、すれ違い、やりきれなかったみんながみんな、湖のほとりの岸で結婚式の続きをしている。死んでしまった地下室の人たちも、戦争で死んだクロもお産で死んだその妻もいて、内戦で武器商人になった最中に殺されたナタリアとマルコも後から合流する。クロがボスで、マルコがその少し下っ端な友人で、ナタリアはクロに愛されてた女性なんだけど、まあそこらへんは三時間のうちにいろいろあって、マルコ夫妻は夫妻になっちゃっていた。クロは死ぬまでそのことは知らなかったんだけど、なぜかクロの息子の結婚式の続きの場では「友人の妻だ」と言って妻にナタリアを紹介している。車椅子だったナタリアの弟は踊れるようになっている。吃音症だった青年はなぜか流暢に話せるようになっている。多分なんだけどある種の天国なんだと思う。苦しみも嘆きも労苦もない。
 最後は岸が割れて、宴会の場だけがゆるやかに湖の果てに流れて行ってしまうんだけど、あれは土地とか領土とか国家から遠く離れていくことのメタファーなのかなぁと思っています。