※別ブログに私が書いたものを転載
◎サイバーパンクに描かれた無数のLANケーブルたちの結末
先日漫画『攻殻機動隊』をkindleで読んでいて気づいたのだけど、あの世界は乱雑としたLANケーブルがカッコイイ世界だった。というか、それが当時の「近未来」でサイバーパンクというものだったのだろう(たぶん)。素子は後頭部にプラグを直接刺すことでネットワークに接続していた。もちろん有線でだ。
私が「おたくなので『マーダーボット・ダイアリー』のファンアートを描こうかしら」となった時に驚いてしまったのは実はそれを自覚した瞬間だった。『マーダーボット・ダイアリー』の世界ではLANケーブルは極めて美しくない。何故なら、インターフェースを使って人間はネットワーク(作中ではフィード)に直接アクセスできるからだ。
身体に接続するものとして出てくるのは、せいぜい構成機体の警備ユニットの損傷を物理的に修復するキュービクルにある補給チューブと修復チューブくらいである。すでにLANケーブルは亡き世界だ。前世紀のものなのだ。「近未来的かっこよさ」の演出としてたくさんのケーブルを配置することは不適切なのだった。
◎人間が無線でネットワークに接続できるようになった瞬間に訪れた影響/効果
『ネットワーク・エフェクト』は「人間がネットワーク-身体を直接結合できる世界を仮定した時それが如何なる影響/効果をもたらすのか」という疑問への筆者なりの回答なのではないかと感じた。主人公たちを襲った「敵」はそのネットワークの
じつにSFらしいと嬉しくなった物語だった。シリーズ中唯一のSF作品だったのではないかとすら思えてくる。他の話はSFというよりTechnology Fictionっぽい……。
◎話せる武器と話せる船のランデブー(※デートの方じゃなくて宇宙用語の「接近」の方の意)
それにしてもARTことペリヘリオン号とマーダーボットのやりとりが可愛くて、SFとかそういう真面目思想がすべて吹っ飛んでしまった。
次の話でも末永くお幸せに。
タイトル:『ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー』
著者:マーサ・ウェルズ(訳:中原尚哉)
出版社:東京創元社(創元SF文庫)
発売日:2021年10月15日(日本語訳)
価格:1260円[kindle]
読了日:11月1日(再読)